「ダーウィンの鳥」に登場した始祖鳥と天使の化石を解説!
アニメ「ルパン三世PART6」の10話「ダーウィンの鳥」の考察ページ。
4話に脚本を担当した押井監督が再び脚本を担当している。
難解な今回の話を、「始祖鳥」と「天使の化石/幻の押井版ルパン三世」に絞り、なるべく分かりやすく解説した。
↓前話の考察へのリンク↓
9話「漆黒のダイヤモンド」の考察はこちら。あらすじ

大英自然史博物館から出てきた不二子は、謎の男ミハイルの車に乗り、連れていかれた屋敷でミハイルの依頼の内容を聞く。
ミハイルは始祖鳥の化石が贋作であるという持論を展開しながらも、その美しさは尋常ならざるものとし、「展示用のレプリカではなく収蔵庫の”本物”を盗み出してほしい」と言う。
依頼に漂う空虚な香りを感じつつも、法外な報酬だったため仕事を受けることにした不二子。
不二子に協力を請われたルパンはその怪しさに眉をひそめ、次元は仕事を降りてしまう。
不二子は閉館後の博物館に忍び込み、何故か途中で合流したルパンと共に始祖鳥の化石が安置されている保管庫に辿り着く。
化石を前にして、本物はそれじゃないと呟くルパン。

ルパンが保管庫の東側に設置されていたボタンを押すと、壁がせり上がり、ある巨大な化石が姿を現す。
何とルパンと思っていたのは依頼人ミハイルだった。
そして巨大な化石は神の不興を買い天界から堕ちたルシファだと言う。
不二子「ルシファ・・!!」
禍々しくも美しい姿に不二子は慄く。
気がつくと、不二子は大英自然史博物館の始祖鳥のレプリカの前に立っていた。
自分はオリジナルの始祖鳥の化石を盗み出すため保管庫に行っていたはず。
今までの出来事はミハイルが見せた幻だったのだろうか?
不二子は大英自然史博物館の外で待っていたミハイルの依頼を断る。
不二子「不信心な泥棒には神様の依頼は重すぎる」
ミハイルのことをミカエルと呼び、不二子はその場を去るのだった。
ダーウィンの鳥について

ドイツのゾルンホーフェンには、ジュラ紀石灰岩の採石場があり、そこには世界で最も完全な化石が数多く含まれていた。1860年から1877年の間に、その採石場で発見された羽毛を含んだ3個の化石。
1860年の”羽の痕跡”。
1861年私たちが話題にしている”ロンドンの第一の鳥”
1877年に発掘され現在はベルリンにあるより完全な姿の鳥。不二子「”ベルリンの第二の鳥”ね」
ルパン三世PART6 #10「ダーウィンの鳥」ミハイルと不二子の会話より引用
謎の依頼主ミハイルは、チャールズ・ダーウィンが『種の起源』を出版後に始祖鳥の化石が見つかったこと、発見のタイミングが都合がよすぎること、この地方には偽造者たちの組合があったこと、ロンドン標本を売却したカール・ヘーベルラインとベルリン標本を売却したエルンストヘーベルラインが親子であることなどを理由に、「始祖鳥の化石は当時の偽造職人たちの産物である」と持論を展開する。
科学史には捏造が多数存在する
事実、科学史には多数の捏造事件がある。
ピルトダウン事件
1909-1911年、考古学者チャールズ・ドーソンによって発見される。
実際には現代人の頭骨とオランウータンの下あごで出来た偽造品だった。
アーケオラプトル事件
1999年に、遼寧省から見つかった羽毛恐竜の化石。
後に異なる化石標本を2つつなぎ合わせたものだと発覚する。

日本で有名な捏造事件は旧石器捏造事件(2000年)です。
教科書はもちろん、大学入試にも影響が及んだ日本考古学界最大の不祥事と言われています。
天使の化石と押井守監督について
あしたの子ルシファよ。いかにして天より隕ちしや。
ルパン三世PART6 #10「ダーウィンの鳥」ミハイルの台詞より引用
「あの鳥が美しいのは、あれが真贋のあわいを飛ぶ鳥だからです」と物語の冒頭でミハイルは語っている。
思えば、もし本当に始祖鳥の化石が堕天使ルシファの化石を元に作られたのなら、ルシファの化石が当時のキリスト教の理念である神の不変性を揺るがした、ダーウィンの「種の起源」を後押したことになり、何とも皮肉な話である。

さて、物語後半に突然出てきたルシファの化石だが、これは押井監督の作品に度々登場する虚構の象徴「天使の化石」が元になっていると思われる。
その根底には1985年、押井守監督でルパン三世劇場版第3弾として公開されるはずだった幻のルパン三世がある。
このルパン三世は、「ルパン三世はいなかった」という押井監督の構想がルパン三世の作品性からかけ離れていたこともあって、NGが出てお蔵入りしてしまった。
この幻のルパン三世は、盗むものがなくなりやる気をなくしたルパンに、とある少女が天使の化石を盗むよう依頼するストーリーとなっている。
幻のルパン三世に登場した天使の化石のモチーフになったのが、フンボルト大学自然史博物館所蔵のベルリン標本、つまり今回登場した始祖鳥の化石である。
つまり押井監督は、過去にお蔵入りとなった幻のルパン三世を再構築し、今回の短編としたのではないか?
今回の主人公がルパンではなく不二子だったのも、その化石の美しさと神様にも選ばれてしまう不二子の神秘性にぴったり合致したからではないかと思う。
シリーズ構成の大倉崇裕氏は、押井監督にルパン三世の脚本を依頼した時のエピソードをTwitterで語っている。
本日深夜の放送です。押井守監督の脚本、2本あったのです。空手の兄弟子である監督に、稽古後、「ルパン三世の脚本、書いてくれませんか?」と尋ねたら「いいよ」と言う即答の衝撃。その後、プロットが2本送られてきた2度目の衝撃。 https://t.co/QH5YdXk4JE
— 大倉崇裕 (@muho1) 2021年12月18日
元々2本のプロットを依頼したわけではなく、依頼したら2本送られてきたという衝撃の事実!
幻のルパン三世で使われるはずだった設定は、後の作品である「機動警察パトレイバー the Movie」「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」などで片鱗を見せている。
しかしながら、押井監督はかつて公開することがかなわなかった幻のルパン三世を、ルパン三世で昇華したい思いがあったのかもしれない。
その他の小ネタ
フランク・ウイン
フランク・ウインあたりが書いて、ベストセラーになったら映画化されるような話ね。
ルパン三世PART6 #10「ダーウィンの鳥」不二子の台詞より引用
フランク・ウインはヨハネス・フェルメールの天才的贋作者であるメーヘレンを題材にした作品「フェルメールになれなかった男」の作者。
明けの明星=ルシファではない!?
今回のルパン三世でミハイル(大天使ミカエル)は神の使いとして現れているが、実は明けの明星はルシファではなく、バビロン王ネブカドネザル二世であるという説もあることはご存じだろうか?
そうなると、不二子が見たミカエルは一体何者だったのか?ということになってしまうのだが・・。
10話の感想
押井監督の脚本だと、ちょっといつもと違う気持ちでルパンを見てしまうというか、若干緊張する筆者である。
第4話「ダイナーの殺し屋たち」の時もそうだったが、今回も難解!
「始祖鳥」と「天使の化石と幻の押井版ルパン三世」に話を絞って、出来るだけ簡潔に解説してみたが、いかがだっただろうか?
↓ヘミングウェイの短編キーワードが詰められた、#4「ダイナーの殺し屋たち」の考察はこちら↓
筆者は難解な10話を読み解くので精一杯で、感想どころではなかった・・・。
11話「真実とワタリガラス」の考察はこちら。
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