アニメ「チ。 ―地球の運動について―」の第12話「俺は、地動説を信仰してる」の考察です。
ノヴァク「簡単に言うと…ブチ切れてる」
バデーニたちが異端者だと確信したのは、恐らくノヴァクがフベルトのネックレスを見つけた時ですよね。
ノヴァク「変に疑いかけちゃってどうもごめんなさい」
…ということは、この時既にノヴァクはブチ切れてたってことになります😅
演技派ノヴァク!
この時一旦帰ったのは、増援を呼ぶためか、剣に手をかけていたオクジーに気づいていたということでしょうか…。
いずれにせよ「ヨレンタに近づいた異端者絶対に殺すマン」と化したノヴァクは非常に危険です!😱
今回は、足止めに向かうオクジーにバデーニがやってくれたことについて解説していこうと思います!
前回の考察はこちら👇
このページはアニメ「チ。 ―地球の運動について―」の12話のネタバレを含みます。
12話をご視聴の後で読んでいただると、より楽しめます。
バデーニがオクジーに行った儀式は何?
神よ。
救世主は私達に約束されました。
「私は復活であり命である。私を信じる者は死んでも生きる」
慈しみ深き神よ。
この世からあなたのもとにお呼びになったこの者を、どうか約束のとおりあなたの国にお受け入れください。
全ての罪の絆から解放され、永遠の光のうちに迎えられ救われた人々と共に、復活の栄光のうちに立ち上がることができますように。
主によって、アーメン。
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第12話「俺は、地動説を信仰してる」
迫るノヴァクの足止めをするため、死地へと向かおうとするオクジー。
そんなオクジーに対して、バデーニが何やら儀式めいたことを行っていました。
バデーニの祈りは一体なんだったのでしょうか?
「聖油」「終油の秘蹟」「死者のための祈り」といったキーワードを使いながら解説します。
バデーニが指につけていたのは聖油?
バデーニは右手の親指に油のようなものをつけ、オクジーの額に親指を当てていました。
これは恐らく聖油です。
聖油はオリーブの実から作られていて、カトリック教会では神の祝福を求めるために使われます。
聖油は特別な儀式で使われ、このシーンについては「終油の秘蹟」と呼ばれる儀式に一番近いと思われます。
終油の秘蹟とは?
終油の秘蹟は、病気などで死に瀕した人に対して、死を迎える準備として行われます。
司祭は病人に聖油を塗り、地上での罪からの解放と神の恩恵を願う祈りを唱えます。
*現在では「病者の塗油」と名を改めました。
バデーニが唱えたのは「死者のための祈り」
バデーニが唱えていたのは「死者のための祈り」の一つです。
オクジーは代闘士という職業柄、既に何人も殺し、さらには足止めのためとはいえ聖職者まで手にかけようとしています。
彼の罪が赦され天国に行けるようバデーニは祈りを捧げたかったのではないでしょうか?
バデーニの祈りは無効?
しかしこの終油の秘蹟と祈りの言葉は無効です。
というのも、終油の秘蹟を行えるのは司祭と司教だけだからです。
副助祭であるバデーニには秘蹟を行えません。
また重大な罪の状態にあり、罪を改めない者には行ってはならないとされているので、覚悟をもって聖職者を殺そうとしているオクジーにも資格がありません。
バデーニはこの祈りに意味がないことを理解していたはずです。
バデーニは何故無効と知りつつ祈りを捧げた?
それでもバデーニが祈りを捧げたのは、オクジーの覚悟が理屈を超えた領域にあると理解していたからです。
そのことを解説にするにあたって、二つのシーンを振り返ります。
研究と信仰
オクジー「自らが間違ってる可能性を肯定する姿勢こそが、学術とか研究には大切なんじゃないかってことです。第三者による反論が許されないなら、それは…信仰だ」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第12話「俺は、地動説を信仰してる」
まずは前半のシーンです。
オクジーは研究の本質について自身の考えを語っています。
他者の批判や反論を受け入れ、託すことが現状を前に向かわせる希望だとも。
そして一切の反論を許さないのは信仰だと言っています。
バデーニの反論をオクジーは受け入れなかった
次は後半のシーンです。
足止めをしようとするオクジーとバデーニが押し問答をします。
地獄に落ちると分かっていながら、オクジーはバデーニが逃げる時間を稼ごうとしていました。
バデーニ「事の重大さが分かってないな。これで君は確実に地獄に落ちる。この研究のためにそこまでする義理はないだろ」
(中略)
「さっき自分でしてた話を忘れたのか?他人からの指摘を受け入れるのが重要だと言ってたろ。君の選択は地動説という学術研究の関わり方として大いに間違ってるぞ」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第12話「俺は、地動説を信仰してる」
バデーニは先ほどの研究姿勢について挙げながら、オクジーをたしなめます。
バデーニの言い方は回りくどいけど、時間稼ぎなんてしなくていいから逃げろってことですね。
オクジー「ええ、ですね。しかし…俺は、地動説を信仰してる」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第12話「俺は、地動説を信仰してる」
しかしここでオクジーはバデーニからの指摘をはねのけ、「信仰」という言葉を使いました。
これはどんな反論も受け入れないというオクジーの堅い意志を表しています。
オクジーの覚悟は理屈を超えていた
ここからは理論や理屈を超えた領域であり、いくら頭のいいバデーニといえどもお手上げです。
自分が何を言おうともオクジーの意志が変わることはないとバデーニは理解します。
だからこそオクジーの覚悟に見合う祈りを捧げたのではないでしょうか。
自分が目を焼かれた時に言われた
「神のご加護を」
だと全然足りないって、バデーニは思ったんじゃないかなぁ…。
例えお互い秘蹟の資格がなかったとしても、そうせずにはいられなかった。
人が何を言っても無駄なら、せめて聖職者としてオクジーに神の恩恵を与えたかったのだと思います。
受け継がれる感動
ラファウ「だからこの場は、僕の命に代えてでも、この感動を生き残らす」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第3話「僕は、地動説を信じてます」
オクジー「今はこの感動を守る為に、地獄へ行ける」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第12話「俺は、地動説を信仰してる」
ラファウとオクジーは会ったこともないはずのに、同じことを言っているのが不思議ですよね。
オクジーもまた、地動説に感動した人たちの、いやもっと遡るのなら、古代から連綿と紡がれてきた「知」を受け継いだと思えた感動的なシーンでした…😭
12話の感想
いやもう、ただ圧巻、圧巻の12話でした!
オクジーとバデーニ、思えば出会った時から正反対の二人だと感じていました。
正反対の二人が一体どんな化学反応を起こすのか?とずっと見守ってきましたが、ここにきてようやくその答えを垣間見ることができたと思っています😊
「そういう他者が引き起こすねじれが現状を前に向かわせる希望なんじゃないかって思ったんです」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第12話「俺は、地動説を信仰してる」
オクジーとバデーニはまさにお互いにとって「予想外の存在」だったのではないでしょうか?
オクジーはこの世に希望を感じる心を取り戻し、感動を本にして残す喜びを知りました。
バデーニは他者を見下し協力してこなかった自分が、結局のところ現状を停滞させていたのではないかと気づきかけています。
お互いにとって思い通りにならない存在が、オクジーやバデーニを成長させ、地動説が完成したといったと過言ではありません。
さて以下は気になったことや、おまけ的なことを語っていこうと思います!
バデーニが手紙を届けるのはかなり難しい?
オクジー「その手紙って重要だったんですか?」
バデーニ「当たり前だろ!私の計画だぞ!しかしこうなった以上中止だ」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第12話「俺は、地動説を信仰してる」
既に異端認定された以上、教会の検閲がかかり手紙を出すことが非常に難しくなってしまいました。
というのも、村の教会にいるのはクラボフスキだからです。
今回の通報者は間違いなくクラボフスキでしょう。
クラボフスキは図書館に行った際に拾ったのはピャスト伯の日記です。
通報の内容は「高度な宇宙論」について書かれており、最後に「異質な宇宙を支持していた」とあるので、ピャスト伯のものでしょう。
クラボフスキ「何を隠そう私…ルクレティウスが読みたくて修道院に入ったところもあるんです」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第10話「知」
暗号で書かれた日記を解読できたのも、そもそもクラボフスキがルクレティウスの本を読むために修道院に入るほど博識だったということも理由として挙げられます。
通報からすぐに異端審問官が動いたのも、通報してきたのが信用のおける司祭だったからでしょう。
バデーニ「頼みがある。明日から地下通路を掘ってくれ。納屋と教会を繋ぐものだ。あと、いざという時の脱出口も作ってくれ」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第10話「知」
そのため、バデーニが地下通路を通って教会に逃げたとしても、手紙どころかバデーニ自身も捕まる危険があると思っています。
教会に繋がる出口ではなく、脱出口から逃げればワンチャン逃げ切ることができるのでしょうか…?
火星の「衝」は災いの前兆なの?
ノヴァク「ちなみに研究って何を?」
バデーニ「占星術です。火星が太陽と正反対の位置にある状態、すなわち衝の際に起こる災いについて」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第12話「俺は、地動説を信仰してる」
バデーニが言っていた、「火星が太陽と正反対の位置にある状態」というのがピンとこなかったんですが、地動説に置き換えてみるとしっくりきました。
つまり「衝」というのは、火星が一番地球に近づく時のことを指しています。
近づくということは大きくはっきりと見えるということ。
火星は「戦争」「攻撃性」「衝動的な行動」を象徴していたため、火星が目立つ位置にあるときは、戦争や暴力的な出来事が起こる前兆と解釈されていました。
何故いい人材は回してくれないのか?
ノヴァク「フッ…そりゃいい人材は回してくれないか」
アニメ「チ。 ―地球の運動について―」第12話「俺は、地動説を信仰してる」
恐らくオクジーが手練れと感づき、増援を連れて戻ってきたノヴァクですが、どうやら戦闘経験のない新兵ばかり回されてしまったようです。
これは助任司祭であるアントニを筆頭に、元傭兵であるノヴァクを快く思わない人間が多いのでしょう。
ノヴァクは司教に腕を買われて在俗のまま審問官をやってるって立場ですから、教会内に敵が多そうですね😅
ここまで読んでいただきありがとうございます😊
12話は細かい疑問もチラホラ浮かんだのですが、やはりバデーニの祈りについてガッツリ解説したかったので、「祈りの解説をメインに据え、残りは感想エリアにブチ込む」という荒業な構成にしたのですが、読みづらくなかったでしょうか…?😅
通報者がクラボフスキであることを鑑みると、ノヴァクと戦うオクジーはもちろん、逃がされたバデーニすらも捕まる可能性が高いのですが、まだ二人が紡いだ希望が残っています。
それがヨレンタなんじゃないかなって思うんですよね。
バデーニ「それと後日我々が捕まったとしても、君は無関係を貫け。それが君のためにも地動説のためにもなる」
「チ。 ―地球の運動について―」第9話「きっとそれが、何かを知るということだ」
ここにきて9話でバデーニが言っていたことがボディブローのように効いてきます…。
エンディングのラストで、オクジーとバデーニが消えた後ヨレンタが目を開けるんですが、これはヨレンタが二人の意志を受け継ぐことを暗示しているんじゃないでしょうか?
しかしそうなると…オクジーとバデーニは消えてしまうんか…。
さ、寂しいよおおおぉぉ!!😭
ラファウももちろん魅力的なキャラですが、あっという間に逝ってしまった印象でした。
なので正直このペースで主人公が交代するのかな?という先入観があったのですが…。
ここまでくると愛着が湧いてオクジーもバデーニも大好きになってしまい、お別れの時間が近づいているのかもしれないと思うと、想像するだけでも寂しくて仕方ないです…。
ゆんこさん…。
寂しがってるところ悪いですが、俺まだ死んでませんからね!
そ、そうだよね!😖
怖いけど、オクジー君の戦いの結末を見守るよ…。
次回の更新は12月22日(日)の予定です。
コメント
私もバデーニに塗油の秘跡を行う資格があるのか疑問だったのですが、他の可能性について共有させていただきます。
バデーニが現在は存在しない副助祭という役職で設定されているのはコペルニクスがそうであったことが関連していそうですが、司祭、助祭、副助祭の3つの上級職の中でも秘跡の執行者は司祭のみであると一般的に言われるかと思います。
秘跡の執行者としての資格を定めているもので有名なものはトリエント公会議(1545年-1563年)であり、「すべての司祭、かつ司祭のみ」とされています。
ただ、本作品はラファウ登場時点で16世紀(前期)と明記されておりこれらの覚え書きが制定される前であった可能性があります。
どちらにせよこれを受けるオクジーにこの秘跡が有効なものであるかは怪しいですが、彼にできる精一杯の祈りであったろうことは変わりないでしょう。
「あなたがたの中で病気の人は、教会の長老を招いて、主の名によってオリーブ油を塗り、祈ってもらいなさい。信仰に基づく祈りは、病人を救い、主がその人を起き上がらせてくださいます。その人が罪を犯したのであれば、主が赦してくださいます」(ヤコブの手紙 5・14-15)
itanさん、コメントありがとうございます😊
ところで、itanさんはもしかして異端さんですか?
後ろにノヴァクさんはいませんね…よし!
まず知識の共有ありがとうございます!
コペルニクスが副助祭であることは初めて知りました😲
以下に終油の秘蹟が司祭と司教にしかできなかったという根拠について、私が調べたことを書いておきます!
『グラティアヌス教令集』(1140年)の第1部第95区分第3章に、教皇インノチェンチオ一世の手紙が引用されています。
「司教も司祭同様、この秘跡の執行者である」
『グレゴリウス九世教皇令集』(12世紀中葉から15世紀中葉ごろまでに編纂された)には、アレキサンドロ三世(1159-1164年)の教皇令が収められています。
そこには
「アレキサンドロ三世は、司祭は病者の塗油の秘跡を一人で、すなわち他の聖職者ないし信徒を伴わずに執行することができるかという問いに対して、執行できると答えている」
とあります。
このことから、12世紀には司祭と司教が秘蹟を執行する権限が確立されていたのではないかと考えています😍
とはいえ、「何で資格もないのにバデーニが聖油を持ってるんだ」となるから困りどころですね😅
itanさんがおっしゃるとおり、バデーニがあの時自分にできる精一杯の祈りをやったことは間違いないと思います!